街頭インタビューについて

森達也氏の「ドキュメンタリーは嘘をつく」という番組を見ました。
これはドキュメンタリーのもつ虚偽性・演出性を題材にしたフェイクドキュメンタリーです。

意図的な演出部分は、レポーターとして抜擢された(メディアディレクターの教え子の)専門学生の女性や、そのメディアディレクター村上賢司氏の妻(妊娠中)や、途中で蒸発した父を探すことを自画撮りで追い続けてきた新鋭のドキュメンタリークリエーターとその父親などの部分など。
その一方で、劇中に登場するドキュメンタリー・ノンフィクションに関わってきた作家・演出家へのインタビューや、実際の事件の取材(アーレフの道場や福知山線事故など)は本物。
なので、真実とヤラセの境界線をシームレスにすることで、ドキュメンタリーのエンタテインメント性を表現することに成功した作品といえます。
(その映像手法は昔のASAYANを彷彿させて、懐かしさもあったりする(苦笑)。)

それは、この辺りを読むと面白いかと思いますね。

メディア・リテラシーとは「メディアからのすべての表現を鵜呑みにせず主体的に読み解く能力」です。これが大切だと主張するからには、メディア・リテラシーの重要性を訴えるこの番組自体、「鵜呑みにせず主体的に読み解いてもらわなければならない」ということです。   この番組は、ドキュメンタリーとして進行していきます。しかし実際には、“大雑把にいうと”対談・インタビューや森・村上の紹介VTR以外はすべて“ドラマ”です(*1)。

さて、これだけだとここで扱う意味があまりないのですが、番組内で気になる「発言」がありました。
それは、森達也氏が多忙のため途中で番組をまかされることになった村上賢司氏が、「ドキュメンタリーは真実を伝えているか」という街頭インタビューを都内各地で決行するのだが番組自体の方向性が見えなくなってしまう。そこで中華料理店でラーメンをすすっていた森氏を直撃するのですが...

村上「街頭の人にインタビューしたんですよ。」
「街頭なんてつまんないよ。」
村上「どうしてですか?」
「あれは、制作者側がこういう意図を伝えたい時に、例えば10人に街頭インタビューをやって、その内3人が思惑通りのことを言ってくれたら、使うっていうさあ、アリバイの補強だからね。つまんないじゃん。稚拙じゃん。」
村上「テレビっぽいと思って、やってきちゃったんですけど...」
「そりゃやっぱり、普段から公正中立、不偏不党を、実際にこう身を以て体験している人、作っている人。報道とかなんか知ってるよ、そりゃしゃべってくれる人は。」

「発言」といっても、このシチュエーション全体はフィクションなので、これは単なるセリフなのかもしれません。
が、このセリフ自体は「伝えたいこと」であって、フィクションではないかもしれません。
(ラーメンを食べていることや、街頭インタビューを否定して、ドキュメンタリー制作関係者のインタビューを続けさせるという流れは台本どおりでしょうが、一字一句台本どおりに話しているとは思えない部分も多々あります。)

これは、以前お世話になったある方からお聞きした話ですが、クライアントの依頼で街頭アンケート(自筆ではなくインタビュー形式のもの、西新宿辺りでもやってますよね)を行う際、それはクライアントの欲しい情報を導き出すた信頼性の高いセリフだなあという印象です。

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さて、話題を強引にこちらサイドにもっていきます(笑)。

最近アキバ系を題材とした情報をテレビで発信していますが、概ね二通りに分類出来そうです。「新種のテーマパークとしての秋葉原」と「オタクの特殊な生態」です。今一般市民が知りたいのはこの2つに集約されていると思います。

例えば、このblogを読んでいらっしゃる大抵の方は何らかのヲタですが(笑)、貴方が万一一般市民(笑)としてもオタク文化に意外に慣れ親しんでいる都会の人なら、秋葉原を違った意味でのテーマパーク的な存在とみなしたりするので、あからさまな拒否反応を起こす方は意外に少ないと思います。実際、最近は秋葉原で一般人のカップルや観光客も(土日に)多く見かけます。「アド街ック天国」や「王様のブランチ」等でそれを紹介する場合は、そういった視聴者をターゲットにしていると思われます。

ただ普段オタクを見かけたことの無い環境下に住んでいる大多数の方は、「ヲタ=キモい人種」という印象が先立つでしょう。だからそのキモいものを実体化するためにスタッフが現場に潜入するパターンも増えています。まあ概ね2〜3年前からだと思われますが。
具体的には「彼女にオタク趣味を取るか私を取るか迫られる男性」を追ったニュース番組だったり、ロリコンを題材にした討論バラエティだったり、「だましイベントに参加させてそこでテレビに晒す」とか、「生身の女性に対する恋愛を拒否しているオタクに恋愛感を説く」といった番組もあります(最近この手の番組を2つも見てしまった...)。
中でも先月あった日曜お昼の某バラエティ番組での誘導尋問形式のアンケートが記憶に新しいところですが、今回は正に上記のセリフと密接に関係するのでしょうね。バラエティ番組の街頭インタビューは概ねこの程度なんでしょう。ただこの程度のスタッフ連中に振り回されるのは御免被りたいものです。

なので、テレビ局側が我々ヲタに対して接触を試みる際に、どういう情報を引き出したいかということを読んで対応していただけると助かります。
ヲタをヲタヲタしくブラウン管に映し出したければヲタ役のプロ素人(仕込み客・ヲタレント)さんはおりますので、その方々におまかせすればよろしいかと思います。